毘沙門天様がみてる2
2004年 09月 04日
「合戦?」
目を瞬かせて、由乃さんが聞き返した。
「えー、もうそんな話題がのぼる時期なの?」
それは修得徒党を解散した後、春日山城に向かう途中の道を二人で歩いている時、ふと思い立って祐巳がふった話題だった。
「もう、って。掲示板にだって、告知されていたよ」
「そうか、そうだよね」
由乃さんは手袋したまま指を折って、「うーん」と小さく唸った。なんに関しても、祐巳の一歩先を歩いているような人が、合戦という一大行事を忘れているなんて珍しい。先手必勝が座右の銘の由乃さんなら、合戦周期を先取りしていそうなものなのに。
「思い出したくないことは考えないようにできているのかな、人間の頭って」
「何、それ」
祐巳は思わず聞き返した。
「言葉の通りよ。合戦って、気が重い」
「どうして。令さまと武将徒党組まないの?」
「組んでる。毎回。……ということは、今回も組まないとだめよね」
「だめ、ってことはないだろうけど。毎回のものが、今回に限ってなかったら変じゃない?」
「そうだよね。『黄薔薇革命』以降初の合戦だけに、参戦しなきゃかなりへこむだろうなぁ。令ちゃんの性格上」
「参戦したくないんだ、由乃さん」
「参戦すること自体はね、嫌じゃないんだ」
だけど由乃さんの場合、装備する物が問題らしい。
「相手が令ちゃんでしょ? このプレッシャーってわかるかな? 毎回すごくなる付与ばりばりの奇跡の一品に対して、こっちは何を装備してこればいいわけ? しかも今回は家老試験なのよ」
「家老試験か……」
一瞬うらやましいと思ったけど、試験を受ける立場になってみれば、それは確かにずっしり重いかもしれない。
由乃さんのお姉さまである支倉令さまは、ベリーショートヘアで業物の太刀振り回しているような二刀侍で、見た目はかなりあれだけど、その内面はとても廃で、2ndの鍛冶屋に装備作りなんかさせようものなら、武器でも防具でもそれこそ業物を連発してしまうような腕の持ち主なのだった。
そこに輪をかけて、影縛りの弱体化。由乃さんにのしかかるプレッシャーは計り知れない。
「別に、戦闘以外のことで合戦のお手伝いしてもいいんじゃないの? 手裏剣配布とか」
「手裏剣?」
ぴくり。由乃さんの眉毛が歪んだ。
「あっ……!」
言ってすぐ、祐巳は「しまった」と思ったけど、もう遅い。友達に救いの手を差しのべたつもりが、バランスを崩して自分から泥沼に陥ってしまった。
「……ごめん。うっかりしてた」
「いいの、祐巳さんのせいじゃないもん」
前合戦で由乃さんが使ってた手裏剣は、令さま3rd陰陽師の手作りだった。令さまという人は、侍や鍛冶屋だけじゃなく、召還の腕もプロ級。そういう手先の器用な人に対して、苦内で生産修得が止まってて、決して器用とはいえない由乃さんが、いったい何を作ってあげられるというのだろう。お姉さまが違うと、思いも寄らない悩みが生まれるものだなぁ、と祐巳は思った。
「参考にならなくてごめんね」
「え?」
「今度の合戦。祐巳さん、祥子さまと一緒に徒党組むんでしょ? 私がアドバイスできたらよかったけど」
「すごい。何もかもお見通しなんだ」
さすが、由乃探偵。思わずその眼力を褒めると、苦笑が返ってきた。
「祐巳さんがわかりやす過ぎるんだけどな」
呆れたようにつぶやく。百面相って白薔薇さまにいわれるけど、本当に頻繁に思ったことが顔にでているようだ。
城門をくぐると、全検索でヒットする人数が多くなって、そして天守閣での大声が微かに聞こえてきた。
その中に、二人はそれぞれ自分のお姉さまの声を聞きつけ、目を輝かせて我先にと階段に急いだ。お姉さまに見つかったら「はしたない」と注意されるほどスカートの裾が翻った。
合戦のことを考えると、祐巳の胸は高鳴る。
わくわくとドキドキが混じり合って、今から居ても立ってもいられない気分になるのだった。
それが、確か日曜夜の評定に出かける時の出来事。
今野緒雪著 「マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物 前編」(集英社コバルト文庫)より
全く元ネタ知らない人が見ても何のことだかさっぱりのパロディですが
不定期に書くかも?
目を瞬かせて、由乃さんが聞き返した。
「えー、もうそんな話題がのぼる時期なの?」
それは修得徒党を解散した後、春日山城に向かう途中の道を二人で歩いている時、ふと思い立って祐巳がふった話題だった。
「もう、って。掲示板にだって、告知されていたよ」
「そうか、そうだよね」
由乃さんは手袋したまま指を折って、「うーん」と小さく唸った。なんに関しても、祐巳の一歩先を歩いているような人が、合戦という一大行事を忘れているなんて珍しい。先手必勝が座右の銘の由乃さんなら、合戦周期を先取りしていそうなものなのに。
「思い出したくないことは考えないようにできているのかな、人間の頭って」
「何、それ」
祐巳は思わず聞き返した。
「言葉の通りよ。合戦って、気が重い」
「どうして。令さまと武将徒党組まないの?」
「組んでる。毎回。……ということは、今回も組まないとだめよね」
「だめ、ってことはないだろうけど。毎回のものが、今回に限ってなかったら変じゃない?」
「そうだよね。『黄薔薇革命』以降初の合戦だけに、参戦しなきゃかなりへこむだろうなぁ。令ちゃんの性格上」
「参戦したくないんだ、由乃さん」
「参戦すること自体はね、嫌じゃないんだ」
だけど由乃さんの場合、装備する物が問題らしい。
「相手が令ちゃんでしょ? このプレッシャーってわかるかな? 毎回すごくなる付与ばりばりの奇跡の一品に対して、こっちは何を装備してこればいいわけ? しかも今回は家老試験なのよ」
「家老試験か……」
一瞬うらやましいと思ったけど、試験を受ける立場になってみれば、それは確かにずっしり重いかもしれない。
由乃さんのお姉さまである支倉令さまは、ベリーショートヘアで業物の太刀振り回しているような二刀侍で、見た目はかなりあれだけど、その内面はとても廃で、2ndの鍛冶屋に装備作りなんかさせようものなら、武器でも防具でもそれこそ業物を連発してしまうような腕の持ち主なのだった。
そこに輪をかけて、影縛りの弱体化。由乃さんにのしかかるプレッシャーは計り知れない。
「別に、戦闘以外のことで合戦のお手伝いしてもいいんじゃないの? 手裏剣配布とか」
「手裏剣?」
ぴくり。由乃さんの眉毛が歪んだ。
「あっ……!」
言ってすぐ、祐巳は「しまった」と思ったけど、もう遅い。友達に救いの手を差しのべたつもりが、バランスを崩して自分から泥沼に陥ってしまった。
「……ごめん。うっかりしてた」
「いいの、祐巳さんのせいじゃないもん」
前合戦で由乃さんが使ってた手裏剣は、令さま3rd陰陽師の手作りだった。令さまという人は、侍や鍛冶屋だけじゃなく、召還の腕もプロ級。そういう手先の器用な人に対して、苦内で生産修得が止まってて、決して器用とはいえない由乃さんが、いったい何を作ってあげられるというのだろう。お姉さまが違うと、思いも寄らない悩みが生まれるものだなぁ、と祐巳は思った。
「参考にならなくてごめんね」
「え?」
「今度の合戦。祐巳さん、祥子さまと一緒に徒党組むんでしょ? 私がアドバイスできたらよかったけど」
「すごい。何もかもお見通しなんだ」
さすが、由乃探偵。思わずその眼力を褒めると、苦笑が返ってきた。
「祐巳さんがわかりやす過ぎるんだけどな」
呆れたようにつぶやく。百面相って白薔薇さまにいわれるけど、本当に頻繁に思ったことが顔にでているようだ。
城門をくぐると、全検索でヒットする人数が多くなって、そして天守閣での大声が微かに聞こえてきた。
その中に、二人はそれぞれ自分のお姉さまの声を聞きつけ、目を輝かせて我先にと階段に急いだ。お姉さまに見つかったら「はしたない」と注意されるほどスカートの裾が翻った。
合戦のことを考えると、祐巳の胸は高鳴る。
わくわくとドキドキが混じり合って、今から居ても立ってもいられない気分になるのだった。
それが、確か日曜夜の評定に出かける時の出来事。
今野緒雪著 「マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物 前編」(集英社コバルト文庫)より
全く元ネタ知らない人が見ても何のことだかさっぱりのパロディですが
不定期に書くかも?
by kanon-gunyu
| 2004-09-04 13:50
| 毘沙門天様がみてる